2019年6月8日

Dance for PDを体験して考えたこと

 パーキンソン病患者のためのダンス・プログラムがあることも知らなかった。でも興味を引かれた理由は、マーク・モリス・ダンス・グループのメンバーが作り上げたプログラムがダンスの喜びと楽しみを享受できるようデザインされている、という記述。同月、世界パーキンソン病学会が日本で開催されるのに合わせて、彩の国さいたま芸術劇場で行われたDance for PDのシンポジウムとワークショップに参加してみた。


 プログラム創始メンバーの一人であるディヴィッド・レベンサールさんは、立ち姿からダンサーそのもの。デモンストレーションでみせてくれたディヴィッドのダンスは、美しく鮮やかで、見惚れてしまった。マーク・モリス・ダンス・グループの元プリンシパルなのだから、当然なのかもしれないけど。立って踊るのが難しいパーキンソン病患者のために、ダンス・シーケンスやインプロ(即興)パートは椅子に座って踊ることができる。座っていようとダンスは制限された感じがなく、空間を移動できなくても周囲とコミュニケーションするダンスが多いので開放感があった。
 思い出したのは、NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)にⅢがあったころ、日本公演(2002年???)で観た「バースデイ」とナハリン振付の「マイナス16」。どちらの作品も前半部分ではダンサーが椅子に座って踊る。座ることで上半身のムーヴメントはよりダイナミックになり、自由にみえた。ダンスのだいご味は回転技やジャンプの高さにあるわけじゃない、と知った。

 Dance for PDのプログラムの特徴として、ディヴィッドが強調したのは「セラピーやリハビリとしてでなく、芸術としてのダンス・クラスを提供すること。なぜなら、ダンスは心と身体をつなぐ認知行動を刺激し、自己表現や感情表現を促し、社会性を養い、喜びをもたらす。従って、ダンス・クラスの指導は身体機能に熟知したスキルを持つ人でなく、ダンサー経験のある人が望ましい。」つまり、Dance for PDのクラスを指導するには、ダンスに慣れていない参加者をダンスへ連れていける雰囲気、美しさ、音楽性、即興性などのアーティストであることが重要、ということになる。ダンスをしたい人にダンス・クラスを提供することはそれほど難しくないだろう。でも、ダンスに乗り気でないかもしれない未経験者に、身体が動かしづらいことも忘れてしまうようなダンス経験を提供するのだ。すごいなぁ…。


 実際にワークショップでディヴィッドのクラスに参加して、とにかく楽しかった。もう脚を高く上げることも、浮遊感のあるジャンプも、キレのある回転もできなくなった私が、踊ることに没頭できるなんて信じていなかったから。久しぶりにダンスを楽しむ経験をさせてくれたディヴィッドに感謝。ニューヨークで彼のクラスに参加できる人たちがうらやましい(笑)。


 その他に、Dance for PDのメソッドは、アダプテッドなダンス・クラスとして成り立つ可能性があると感じた。話は飛躍するが、東京オリンピック・パラリンピック2020が決まってから、見聞きすることが多くなった「アダプテッド・スポーツ」という言葉。その意味あいは、「スポーツのルールや用具を障害の種類や程度に適合(adapt)させることによって、障害をもつ人はもちろんのこと、幼児から高齢者、体力の低い人であってもスポーツに参加することが可能になる(矢部京之介先生・名古屋大学)」。シッティング・バレーボール、ゴールボールやボッチャなどは、健常者と障害者が一緒に楽しめる種目として紹介されることも増えた。ずいぶん前に、体育の授業でダンスが必修となったとき、どんなダンスを授業で取り上げるかが話題になったと記憶している。ダンスを楽しむ人が多くない日本は、つまり、ダンスの楽しさを知る機会が少ないとも言えるだろう。アダプテッドなダンス・メソッドやクラスが充実すれば、もっとダンスを楽しむ人が増えるかもしれない。

 ダンスは想像力や表現力を刺激して養ってくれるはず。それは多くの日本人が苦手としているんじゃなかったかしら。